2008年10月に「サトシナカモト」という人物の名で論文が投稿されました。
タイトルは「ビットコイン:P2P 電子通貨システム」。
このわずか9ページの論文の中にビットコインの構想がまとめられています。
シンプルな書きっぷりながら、既存の金融の問題を指摘し、これを解決するシステムを明快にしめしています。
このページでは、
- この論文の要旨
- 主要な原文とその解説
によって、
サトシナカモトが提唱したビットコインの世界をつかんでいきましょう!
≫参考 日本語で読むビットコイン原論文 [by Satoshi Nakamoto]
≫参考 Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(英語原文)
サトシナカモト論文の要旨
サトシナカモトが論文で主張した「おおまかな要旨」は以下のとおり。
- 現代のインターネット上の「お金のやりとり」には問題があり、「非効率」である、と問題提起した。
- これを解決する方法として「ブロックチェーン」「暗号技術」を使った電子通貨の仕組みを提唱した。これが「ビットコイン」である。
というわけで、
この論文を読み解くと、
- ビットコインが誕生した「背景」
- ビットコインに使われている「技術」のポイント
が分かります。
なので、ここでは、論文の
- 「概要」
- 「イントロダクション」
- 「結論」
の原文からポイントを抜き出し、
解説を加える形で読み解いていきたいと思います。
- 第1部「現代ネット決済の問題点」
- 第2部「ビットコインの構想の提示」
の2部建てでいきましょう。
サトシナカモト論文:第1部「現代ネット決済の問題点」
まずは前半。
問題提起:ネット上の決済が「金融機関との信頼」に依存していること
インターネットでの商取引は、ほぼ例外なく、電子取引を処理する信頼できる第三者機関としての金融機関に頼っているのが現状である。
大多数の取引においてはこのシステムで十分であるものの、信頼に基づくモデルであるがゆえの弱点は残っている。
キーワードは
- 「信頼できる第三者機関としての金融機関」
- 「信頼に基づくモデル」
の2つ。
インターネット上でお金のやりとりをする際、
「金融機関との信頼に頼っているのが問題である」
とサトシナカモトは問題提起しています。
ここでの金融機関とは、
- 銀行
- クレジットカード会社
- 電子マネー業者
などのことを指します。
問題は「非可逆的な取引を扱えないこと」
金融機関は争議の仲裁を避けて通ることができないため、完全に非可逆的な取引を扱うことができない。
(中略)
一定の割合の詐欺は、避けられないものとして受け入れられている。
つまり、金融機関側は
- 一度決済したはずの取引を「差し戻し」たり、
- 「キャンセルできる可能性」を残しておかないといけない
ということ。
(これがサトシナカモトがいう「可逆性」。彼らは非可逆な取引を扱えない。)
これは、
「ネットでの決済には操作ミスや一定割合の詐欺を避けて通れない」
からですね。
さかのぼり可能取引の運用には「コストがかかる」
非可逆的サービスに対する非可逆的支払を提供することができないことによる損失は広範にわたる。仲裁コストが取引のコストを引上げることで、取引規模は限定され、少額取引の可能性が失われる。
また、可逆的取引を扱うためには信用が問われる。
商業主は顧客に対し用心深くあらねばならず、顧客から多くの情報を求める。
サトシナカモトは
「さかのぼり可能な取引を扱うことによる損失はめちゃくちゃ大きい」
と言います。
過去取引を「キャンセルできる」権限がある銀行側は、信用がないとやっていけません。
また、顧客側に対しても顧客の個人情報を多く求めることになり、これらの管理コストが膨大になります。
このコストに対して割が合わない少額でフランクな取引はできなくなります。
(たかだか数万円引き出すのに、ATM手数料をとらないと成り立たない!)
さかのぼれてしまうが故に、信用がないと成り立たないんだ。
これを実現するのは「信用」ではなく「システム」である
必要なのは、信用ではなく暗号化された証明に基づく電子取引システムであり、これにより希望する二者が信用できる第三者機関を介さずに直接取引できるようになる。
さかのぼりができず、電子的に必ず正しいことが証明できる「取引システム」だ!
・・・とナカモトは言っているな。
- 「信用」ではなく「システム」!
- 「第三者」を介さず、取引する人同士「直接」!
これが実現できれば、
金融機関を仲介しなくても、取引したい2者が直接やりとりできる
ことになります。
管理側の影響を受けない、自由!
そして、無駄なコストがかからない!
サトシナカモト論文:第2部「ビットコインの構想の提示」
続けて、後半に入っていきます。
ブロックチェーンの構想
この論文では、時系列取引のコンピュータ的証明を作成するP2P分散型タイスタンプサーバーを用いた、二重支払問題の解決策を提案する。
このネットワークは、(中略)更新日時を記録し、プルーフオブワークをやり直さない限り変更ができない履歴を作成する。
小難しい表現ですが、
「時系列取引のコンピュータ的証明を作成するP2P分散型タイムスタンプサーバー」
とは、
- 「ブロックチェーン」
- 「暗号化技術」
のことを指しています。
これらを中身をざっくりと言うと、
- データは中央サーバーではなく、分散してみんなで管理
- 取引記録は、チェーン状にして「順番」に並べていく
- 「誰が送金」して、「誰が受けとったか」をみんなで監視しあって管理
という、システムのこと。
これを使えば、金融機関が間に入らなくても、
- 二重支払い問題
- 支払い後にさかのぼっての改ざん
などといった
「電子通貨の問題点」を一気にどどーーーん!と解決できる
ということ。
システム自体が攻撃者を駆逐する
本システムは良心的なノードが集合的に、攻撃者ノードを上回るCPUパワーをコントロールしている限り安全である。
最長である一連のチェーンは取引履歴を証明するだけでなく、それがCPUパワーの最大のプールから発せられたことを証明する。
大多数のCPUパワーが攻撃していないノード(ネットワーク接続ポイント)によってコントロールされている限り最長のチェーンが作成され、攻撃者を凌ぐ。
なんのこっちゃー!
悪者が現れても、ビットコインのシステムは大丈夫なのです!
悪意のあるものが
- (割りに合わないほどの)膨大な数のコンピュータを準備し、
- 他の参加者の計算能力を上回らない限り、
このシステムは安全である、といっています。
攻撃者は改ざんのためには、この膨大なコストを払って攻撃を仕掛ける必要があります。
参加者は自由にネットワークに参加・離脱できる
ノードは自由にネットワークから離脱、再接続することができ、離脱していた間のイベントの証明として、最長のプルーフオブワークチェーンを受信する。
ネットワーク自体は最小限の構成でよい。
各参加者は、好きなタイミングでネットワークから離脱してよい。
再接続した場合は、その間のチェーンを受信するだけでOK。なのです。
≫参考 ブロックチェーンとサトシ・ナカモト論文を完全理解する「10の問い」